【おたよりコラム】心の中にある声に
「どうしよう」「どうしたらいい?」「最初はなんの音だったっけ?」「どうする?」まっしろな頭で必死に考える。でも落ち着いて考えることもできない。スポットライトをあび、ステージの上でひとり、黒いグランドピアノに向き合いながら、思考だけが空回りしていく。真っ白な世界の中、永遠とも思える時間がすぎていく。「はやくだれかどうにかして」そんなことを思う。でもだれの声も自分の耳には届かない。
小学校3年生か4年生の秋から冬にかけての少し寒くなっていた時期だったと思う。通っていたピアノ教室の大きなホールでの発表会。ひとりひとりの発表と連弾の発表があった。どちらも譜面を見ないでひけるように練習を数ヶ月前から行い仕上げてきていた。発表会が始まる。みんな素敵な服で順番にでてきては、ピアノを弾いていく。自分の番が近づくとステージの袖に移動した。指が冷えないようにカイロで指をあたためる。ひとり、またひとりと順番が近づくにつれ、不安になっていく。「できないかも」「できる、大丈夫!」「もし失敗したら?」「あれだけ練習したじゃん」頭の中で心の声が言い合い始める。いよいよ次は