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【おたよりコラム】近くの支えと遠くの支え

 「いくよー、3、2、1、GO!!」そういって住宅街の中をかけ出す。全力疾走でたくさんの家を通り過ぎる。息を切らしながら、ひたすたに走る。数100メートル先の公園まで。公園につくとちょっと休憩。トイレをすませ、「リブラ、ジャンプ!」とか声をかけながらちょっとトレーニングしつつ遊ぶ。そしてまた道路へ。「次は丸山台公園までね!いくよいくよいくよーーーGO!!」そしてまた走り出す。足がちぎれそうになりながらも声を掛け合い、目を合わせながら、全力で走っていく。それが自分とリブラの散歩だった。リブラは小学校5年か6年かのときに家にきた小型犬で、ジャックラッセルテリアという犬種。白と茶色のかわいい容姿だけれど、元気で、走るのがはやく、体力もピカイチ、そんなわんこ。アジリティというハードルをとんだり、ポールをジグザグに走ったり、トンネルを抜けたり、そんな障害物走の大会にも一緒にでたりしていた賢い子だった。アジリティという競技ではもちろん、家でゆっくりしているときでも、パートナーという言葉が一番しっくりくるほど、わたしの心の支えとなる存在だった。そんなリブラの生活はおうちの中。基本は一緒に過ごし、1日3回朝夕夜にお散歩にいく、トイレをするのが、お外で散歩の時だけだったからだ。なので台風でもなんでも散歩はかかさずだった。朝30分、夕40分、夜はさっくり10分ぐらい。大変と思う時もあったけれど、自分は散歩が大好きだった。トレーニングしながら一緒に遊ぶ。一緒に歩いたり走ったりしていると、2秒か3秒ごとにこっちをみてくれるリブラ、そしてその視線を逃さず毎回声をかける自分。ずっと会話しながらだった。公園につくと「何かしようよ!」と楽しそうな表情でみてくるリブラ。そんな自分と夕方の散歩に行くと、まず1時間は行ったっきりになる、7、8kmの距離を歩いていることも多かった。そんなある日の散歩のこと、いつも通り公園から公園へと全力で走り、3つめぐらいの公園についてから、リブラと話して、「こっちの道にいってみよう!」とあまりいかない道の方にいくことにした。あまりいかない道といっても車ではよく通っている道。この先にいくと駅があって、その先に大きな環状2号線という道がある!その道までいってみようとウキウキしていた。家からすでに3kmはすぎていたけれど、相変わらずリブラと話しながら一緒の時間を楽しんでいた。大きな通りに着くと楽しくなってしまった。歩道がひろくて何も気にせず、思いっきりまっすぐ走れる場所だったからだ。もうひたすらによーいどん!だいぶ走ったあと、そろそろ帰ろうかと、なんとなく大きな通りから住宅街の広がる小道を曲がった。上り下りが多い住宅街だった。そしてまさかの行き止まり。そのときふと小さな不安が心にあることに気づいた。そして大通りに戻ろうと歩いていると、今どっちの方角を向いているのかわからなくなっていることに気づいた。そして秋ごろの空はほのかに暗くなってきていた。「大丈夫だよね!こっちからきたはず、いってみよ!」リブラに話しかけることで自分を保っていた。そこからもたくさん歩いた。でも住宅街から抜け出せず、暗くなってきたことで、怖さがピークに。ついに電話をすることに。散歩用に赤いPHSを持たされていた。怒られるかもとビクビクしながら電話をする。まず最初の言葉は「いまどこにいるの?流石に遅いよ、早く帰ってきなさい」だった。自分が言えた言葉といえば、「いまどこにいるかわからない」という言葉。あきれた母。歩いた道などを話し、車で迎えにきてもらえることになったけれど、大通りまででないとどこにいるかわからないから拾うこともできないといわれた。はっきりと記憶にあるのはここまで。結局なにも解決していないのだけど、「よし、大通りまでがんばろー!」とリブラと明るく歩き出したことは覚えている。そこから先、記憶にないのは、きっと不安がなくなったからだと思う。まったくもって根拠のない自信にあふれた6年男子のアホな行動からわかった、近くに誰かがいてくれる心強さと、声だけで大丈夫と安心させる母の大きさ。

三尾 新

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